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- 箏 - こと -
人の世界が始まって、最初に木の片割れに絃を張って、
はじいて音をだしてみたのは一体誰だろう?”北京原人”
にちがいない。と一人合点する。それこそが、我が愛する箏の
源流なのです。その絃は植物の枯れた蔓だったのだろうか?
自然の樹々の間を縫う風のうねり、鳥、けものの声のほか何も
聞こえてこない時代、人々のかしましい音声や、町や機械の
噪音のない静寂な世界で響いたこの箏の源流の音とは、
どんな音だったろうか。そして樹々そよぐ自然界にどのように
呼応したのだろうか。楽器を前にしたとき、私の心の隅をよぎる
思いはその頃のその響きなのです。
木の片割れが、共鳴胴をもち、楽器としての形態をそなえ、
絃が繭から紡いだ絹の糸の束となり今の箏の型が大成された
のはもう三千年も前のことだったと言われます(中国で)。
人智があらゆるものを大きく進化させてきた今、3000年前
そのままの型で音を放って来た箏と言う楽器に
私はこよなく愛着をもつのです。
原始の頃からいまに至るまで、この素朴な木の楽器から宇宙へ
むかって飛び立ったおびただしい音たちの群を、そしてその
一音一音に託されたであろう人々のそれぞれの想いを、
たぐり寄せたい気持ちがしきりにつのります。
沢井一恵